2014年12月5日金曜日

妻家房 四谷本店(東京・四谷三丁目)

水冷麺定食(850円)の冷麺。2014年11月

これまで紹介したように、いろんなところで、いろんな冷麺を食べてきた。でも、なんだかんだ言って平壌冷麺がいちばん好きだ。昔からそんな気はしていたのだが、6月にソウルの「平壌麺屋」を訪れ、9月にもクアラルンプールの北朝鮮レストランで平壌冷麺を食べて、その疑念は確信へと変わった。

平壌冷麺の特徴は、なんといっても蕎麦粉を麺の主原料としていることだ。ツルツルの麺にダシの効いたスープがよく絡み、噛めば蕎麦の香りが口のなかに広がる。まだ本場平壌で冷麺を食べたことはないけれど、平壌冷麺の魅力は十分すぎるほどわかる。

しかし、実は、まだ東京でちゃんと蕎麦の香りがする冷麺に出会ったことがなかった。そんななか、ある店の冷麺は「蕎麦の香りがする」という噂を耳にした。

妻家房(さいかぼう)」。チェーン展開している韓国料理店で、そのへんのデパートのレストラン街に入っていたりする。今回、向かったのは、四谷三丁目にある本店だ。


美しい秋晴れに恵まれた、11月のある平日。新宿御苑あたりで用事があったという同行者と合流し、徒歩で四谷三丁目へと向かった。

地下鉄丸ノ内線の新宿御苑駅から四谷三丁目駅まで、800メートルほどの距離しかない。四丁目の五叉路を過ぎると、ほどなくして右手に韓国文化院が見えてくる。駐日韓国大使館が設置した文化施設で、大きな現代風のビルだ。

そこからさらに2分ほど歩くと、「妻家房 四谷本店」はあった。


全国に20店舗を展開しているチェーンの本店というから、それなりに大きな店なのかと想像していた。しかし、予想に反し、比較的こぢんまりとしている。この朝鮮式のひさしがなければ、見落としてしまいそうなぐらいだ。


ランチタイムは11時30分から17時00分までらしい。長めに設定されているのがありがたい。そして、水冷麺定食は850円。まあ、当然これを注文しますよね。


1階は、手前がキムチなど韓国食品の販売コーナー、そしてその奥が「キムチ博物館」になっている。キムチ博物館ではキムチを漬ける過程などが展示でわかるようになっているが、僕が行ったときはいろいろ荷物が積まれていて、半分物置と化していた。


食事は2階だというので、階段を上がる。人がすれ違えないほど狭い階段を抜けると、あんまり広くないレストランスペースに出た。平日の昼前だったが、すでに客が何組かいた。一人客もいる。石焼きビビンバの定食を頼んでいる人が多いようだった。


冷麺定食を頼むと、まずパンチャン(おかず)が2品、そして白菜キムチが出てくる。キムチは、お好みで冷麺に入れるやつ。


そして出てきた、ご本尊様。南無妙法蓮華経。けっこうデカい。店員さんが麺にハサミを入れてくれる。写真を撮る前に盛りつけが崩れてしまわないか、少し不安だったけど、崩れないようにうまいこと切ってくれた(こんなこと心配するなんて、われながらブログ脳すぎて悲しい)。

具は、ゆで玉子りんご牛肉塩もみキュウリ大根キムチ。りんごは塩水に漬けてあって味がよくわからなかったので、もしかしたらりんこじゃなくて梨かもしれない。牛肉は、ダシ殻のパサパサのやつ。長方形に薄く切ってあって、平壌冷麺っぽい。


スープは牛ダシ汁と大根キムチの汁を合わせたものだろうが、大根キムチの汁がけっこう多めに入っているようだ。キムチの発酵による酸味だけでなく、大根特有の荒々しいえぐみが舌に残る。ここまで大根が主張しているスープは初めてだ

しかし、不思議と大根のえぐみを感じたのは一口目だけで、それ以降は気にならなくなった。むしろ、この「ダシ汁と大根キムチの汁を合わせただけ」という、基本に忠実な感じが好印象だった

途中から白菜キムチを入れた。キムチはけっこう味付けが濃いめで、入れると完全にスープの味が変わってしまう。もちろんお好み次第だが、全部は入れないほうが無難かもしれない。

そして、いよいよ麺について


太さは日本蕎麦ぐらい。ツルツルしていて、弾力はあるがやや軟らかめの麺だ。スープの絡み具合も悪くない。そして、噛むとやさしい蕎麦の香りが口に広がる。それほど濃厚ではないが、たしかに「妻家房」の冷麺は蕎麦を使用しているようだった。平壌冷麺のような黒々とした色ではないものの、しっかり蕎麦の色をしている。

そしてこの冷麺、麺の量がけっこうある。混ぜる前の様子を見ると、麺のカタマリが2つあるように見える。冷麺1杯に2玉使ってるのではないだろうか。いや、冷麺に本来、1玉2玉っていう分け方はないと思うけど、まあそれに相当する量ということ。同行した知人も「ボリュームがけっこうあった」と満足してくれた様子だった。

ちなみに、さきほども言及したが、この建物の1階には韓国食材を販売しているコーナーがある。そして、そこでは妻家房の工場で製造された冷麺の麺とスープが販売されている

麺の袋の裏に書いてある原材料名を見たところ、「小麦粉、小麦澱粉、そば粉、食塩、酒精」とあった。食品の原材料名は量の多い順(重量ベース)に記載されている。つまり、どんなに多くても蕎麦粉は3割程度しか入っていないことになる。


平壌冷麺は、麺の原料が蕎麦粉とお湯だけらしい(ただし、場合によっては緑豆澱粉なども混ぜる)。しかし、クアラルンプールの記事でも書いたように、日本で一般的に手に入る蕎麦粉では、やはり冷麺特有の弾力が出ないのだろう(実際に家で試してみたこともあるが無理だった)。

しかし、それでもちゃんと蕎麦粉を使っているのだから大したものだ。こだわりを感じる麺である

チェーン店ながら、本格派としての実力を見せつける「妻家房」の冷麺。麺の量も多く、コストパフォーマンスは抜群だ。もしほかの支店でも同じクオリティの冷麺が提供されているのだとしたら、かなり利用価値は高そうだ。今後、調査していかなければならない。

そんなことを考えつつ店を出て、冷麺のように透き通った秋空のもと、再び四谷方面へと歩みを進めていった。